スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ハロウィン・アンソロジー企画用 『トリック・オア・トリート』

 粉雪が舞う季節だった。放課後の美術室は西日が眩しかった記憶がある。頬を染め、君が渡してくれたのは、綺麗にラッピングされたチョコレート。僕は折角の好意を、ぶっきらぼうに突き返してしまった。君は俯いて、僕に表情を見せないまま走り去っていったよね。
 あれから半年。相変わらず僕は美術部の冴えない顧問で、君は春の進級で部長になった。部員数が三人の我が部は、マイペースなキャラ揃いで、時間通りに集合出来た試しがない。今日も顧問と部長は、美術室で二人きり。あのバレンタインの出来事以降は、気まずい空気が流れるのを覚悟していたが、君は淡々と日々を過ごしている。その押し付けない優しさが僕を救ってくれた。
「先生、次はこれをモチーフにして描きませんか?」
 部長らしく提案した君が、重そうに運んできたのは、バスケットボール程もある南瓜。
「だって、もうすぐハロウィンですよ」
 君が部長になってから、分かってきた事がある。イベントが大好きだっていう事。
 新入部員の歓迎会、七夕、夏休みの合宿、そして今日はハロウィンか。季節の折り、君は色々な表情を見せてくれた。ふわりとした笑顔、さらさらした長い髪がたなびく。はしゃぎ回って、他の部員に窘められたりもしていたね。そんな君を見る度に、僕の心に、小さな明かりがともるようになったんだ。
 口に出してはいけない感情。僕は教師で君は生徒。学校での明かりが華やかな分だけ、仕事を終え一人過ごす自宅での夜は、薄暗くて淋しい。こんな気持ち、君に出会うまで気付かなかったよ。
「南瓜って硬い……」
 気付けば君は、橙色も鮮やかな塊を、彫刻刀で懸命に彫っている。
「何しているんだい?」
「ジャックランタンを作ってみようと思って」
「相変わらずこういう行事が好きだなあ」 
 イベント好きの君。何故チョコレートをくれようとしていたんだろう。僕だけにだったのだろうか。……駄目だ、考えちゃいけない。君は優しいから、他の人にもあげたに違いない。きっとそうだ……。
「痛っ」
 咄嗟の行動。彫刻刀で傷ついた君の指に、口唇を押しあててしまった。
「あ……」
 慌てて離れると、君のはにかんだ笑顔が咲いた。
 大丈夫だと言われ、言葉が詰まった。これ以上何かを喋ったら、関係が壊れてしまいそうで怖くなる。
「皮一枚切れただけだから、余計に強く痛みを感じるのかな」
 絆創膏を貼りながら、何事もなかったかの様な振る舞い。君の動揺を期待している自分に気がついて、苦笑いが浮かぶ。
 口唇に残るほろ苦い甘さ。子供の頃にねだって食べたお菓子のようだ。あの冬に戻れるのなら、もう絶対にチョコレートを返したりなんかしないよ。
「トリック・オア・トリート」
 お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。
 ひとりごちた僕に、まだハロウィンじゃないですよと笑いながら、君はひと粒チョコをくれた。
 君の事が大好きだ。
 いつか言えるといいな。玄関先で叫ぶ子供のように、大きな声で。
         
―FIN―
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
プロフィール

水崎沙亜乃

Author:水崎沙亜乃
竹の子書房社員・水崎沙亜乃の竹の子書房用作品倉庫。
このブログの作品の著作権は水崎沙亜乃に帰属します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。